管理職には、目標管理、業務管理、人材育成、チームづくりなどの役割が求められます。
これらは、業界を問わず必要なマネジメントの基本です。しかし、管理職が実際にどのような行動を取るべきかは、業界や職場によって異なります。
学習塾の校舎長、小売店の店長、飲食店の責任者、製造現場の管理職、本社部門の課長では、管理職自身が担う仕事も、部下が生み出す成果も、育成が難しくなる理由も異なるからです。
一般的な管理職研修で知識を学ぶだけでは、現場の行動につながりにくいことがあります。
必要なのは、マネジメントの基本を土台としながら、業界特性と、その企業ならではの価値観や知恵を重ねることです。
管理職が直面する課題は、業界によって異なる
同じ「部下育成」という言葉でも、管理職に必要な行動は同じではありません。業界ごとの典型的な違いを見ていきます。
学習塾・教育――講師を通じて生徒を伸ばす
学習塾の校舎長は、自ら授業や生徒指導を行いながら、若手講師を育成します。
講師はそれぞれ自分の授業を担当しているため、ほかの講師の実践から学ぶ機会が限られます。また、成果を出している講師でも、生徒の何を見て、どのように判断したのかを言葉にできないことがあります。
校舎長には、成功した授業方法を教えるだけでなく、次のようなことを講師から引き出す役割があります。
- 生徒のどのような反応を見たのか
- その反応をどのように捉えたのか
- なぜ、その声かけや授業方法を選んだのか
- その結果、生徒にどのような変化が起きたのか
個々の講師の実践知を、校舎全体で学べる知恵に変えることが、学習塾における管理職の重要な役割です。
小売・店舗型サービス――日常の経験を成長に変える
小売・店舗型サービスでは、店長自身も接客や販売を行いながら、売上や利益を管理します。
忙しいときには、経験のある店長が自ら対応したほうが、目の前の業務を早く進められます。しかし、店長がいつも答えを出して対応すると、スタッフは自分で考え、判断する機会を得られません。
店長には、スタッフの力量に合わせて少し難しい仕事を任せ、接客後に具体的なフィードバックを行う役割があります。
日常の接客を、その場限りの経験で終わらせず、次の行動に生かせる学びに変えることが必要です。
飲食・接客サービス――お客様に合わせて判断できる人を育てる
飲食・接客サービスの管理職は、繁忙時には自ら現場に入り、お客様への対応を優先しなければなりません。
また、短時間勤務者やアルバイトなど、勤務時間や経験の異なるスタッフが働いています。そのため、仕事の手順を教えることが中心になりがちです。
しかし、お客様が求めている対応は、いつも同じではありません。
管理職には、決められた接客手順を守らせるだけでなく、スタッフが目の前のお客様の状況を捉え、自ら判断できるように育てることが求められます。
特に長い歴史を持つ店舗では、受け継がれてきたおもてなしが、ベテランスタッフの感覚にとどまっていることがあります。その店らしいおもてなしを次の世代へ継承するためには、ベテランが何を見て、何を大切にして対応しているのかを明らかにする必要があります。
製造・技術職――失敗の影響を抑えながら判断力を育てる
製造・技術職の管理職には、安全、品質、納期、生産性を同時に管理することが求められます。
この領域では、若手に経験させることが必要だと分かっていても、失敗が安全や品質、生産に及ぼす影響が大きいため、簡単には任せられません。
製造・技術職で継承すべきなのは、作業手順だけではありません。
- どこを見て、正常・異常を判断しているか
- どのような変化をリスクの兆候と捉えているか
- 何を確認してから作業を進めているか
- どの状況で作業を止め、誰に相談するか
熟練者の作業を見せながら判断理由も説明する、若手の判断を確認してから実行させるなど、リスクを抑えた経験機会を設計することが必要です。
本社・オフィス部門――管理職の正解を伝えるだけにしない
本社・オフィス部門では、部下の仕事の過程や工夫が見えにくく、成果の定義や評価基準も曖昧になりがちです。
また、その組織で長く経験を積み、業務に精通した人が管理職になることも多くあります。
経験が豊富であるからこそ、管理職の考えが「正解」として扱われ、部下が異なる意見を出しにくくなることがあります。
必要なのは、管理職が自分の答えを伝えないことではありません。一方的に答えだけを伝える前に、部下が状況をどう捉え、何を考えているのかを聴くことです。
管理職には、個々の専門的な仕事が、会社や組織全体にどのような価値を生み出しているのかを示し、その会社で働く意味につなげる役割もあります。
共通するのは「自分が成果を出す」からの転換
業界によって管理職の具体的な役割は異なりますが、共通する転換があります。
それは、管理職自身が成果を出すことから、部下を通じて成果を生み出すことへの転換です。
ただし、「部下に任せる」という同じ言葉でも、必要な対応は異なります。
- 学習塾では、講師の感覚的な実践を言葉にし、学び合えるようにする
- 小売では、日常の接客経験を振り返り、次の行動につなげる
- 飲食では、お客様の状況に合わせて判断できるようにする
- 製造では、失敗の影響を管理しながら判断経験を積ませる
- 本社部門では、管理職の答えだけを伝えず、部下の考えを引き出す
一般的なマネジメント理論を、業界の仕事と成果に合わせて翻訳する必要があります。
同じ業界でも、企業によって管理職像は異なる
業界特性を理解するだけでも、十分ではありません。
同じ学習塾でも、成績向上と人としての成長をどう捉えるかは異なります。同じ小売業でも、販売を重視する企業と、購入後の長期的な信頼を重視する企業では、求める接客が変わります。
その企業らしい管理職像をつくるには、次の3つを重ねることが必要です。
- 管理職に共通して必要な基本
- 業界特性に合わせた役割と行動
- その企業が大切にする価値観と、成果を出す人の判断
一般論だけで管理職像をつくると、その企業が培ってきた良さやオリジナリティが薄れてしまう可能性があります。
成果を生み出す判断を、組織の育成力に変える
株式会社クラリスでは、業界特性を踏まえながら、成果を出している管理職や現場社員へのヒアリングを行います。
本人にとって当たり前になっている観察、判断、関わり方を明らかにし、その企業が大切にする価値観と結びつけます。
その内容を、管理職の役割・行動基準、研修、OJT、面談ガイド、事例教材など、現場で実践できる形に整理します。
一般的な管理職研修を実施しても現場の行動につながらない、管理職によって人材育成の質が異なる、自社らしいマネジメントを次の世代へ継承したいと感じている場合は、クラリスへご相談ください。
「企業らしさを受け継ぐ管理職育成」シリーズ
一般的なマネジメントを土台にしながら、業界特性、企業の価値観、成果を出す人の知恵を、現場で実践できる判断と行動に変える方法を紹介しています。
