学習塾の校舎長・教室長は、マネジメントだけを担当しているわけではありません。
自ら授業を担当し、生徒への学習指導や保護者対応を行いながら、生徒募集や売上管理、教材・時間割・講習の運営、突発的な対応、本部への報告など、多くの業務を担っています。
そのうえで、若手講師を育成し、校舎全体の成果を高め、次の校舎長候補を育てることも求められます。
一般的な管理職研修で扱われる「部下育成」「チームづくり」「業績管理」は、学習塾の校舎長にも必要です。しかし、そのまま学習塾の現場に当てはめるだけでは、実際の行動につながりにくいことがあります。
学習塾の業務特性を踏まえ、校舎長がどのような役割を担うのかを、具体的に考える必要があります。
講師の成長が、個人の努力に委ねられやすい
学習塾では、講師がそれぞれ自分の授業を担当しています。そのため、ほかの講師が生徒のどこを見て、何を考え、どのように関わっているのかを知る機会は、意外に多くありません。
講師には、自ら学び、授業を工夫することが得意な人も多くいます。一方で、そのことが、授業改善や生徒対応を個人の経験と努力に委ねることにもつながります。
優れた実践が行われていても、本人にとっては感覚的であり、なぜうまくいったのかを説明できないことがあります。その結果、成果を生み出している知恵が、ほかの講師に共有されないままになってしまいます。
教育を提供する会社であっても、自然に「チームで学び合う文化」が生まれるとは限りません。
だからこそ、校舎長には、講師一人ひとりの実践を校舎全体の知恵に変える役割が求められます。
成功した方法だけを共有しても、再現はできない
たとえば、ある講師に生徒の成績が伸びた理由を尋ねると、「宿題を必ずやってくるようにしたから」と説明することがあります。
しかし、「宿題を徹底させる」という方法だけを共有しても、別の講師が異なる生徒に同じ成果を生み出せるとは限りません。
本当に明らかにしたいのは、その方法を選ぶまでの過程です。
- 生徒のどのような表情、反応、変化を見たのか
- その様子から、生徒の状態をどう捉えたのか
- なぜ、その授業方法や声かけを選んだのか
- 関わった結果、生徒にどのような変化が起きたのか
ここまで言葉にすることで、ほかの講師も自分が担当する生徒に合わせて応用できる知恵になります。
表面的な成功行動を広げるのではなく、講師が何を見て、どう考え、どう判断したのかを共有することが重要です。
生徒が「走り出せる瞬間」をつくる
生徒の意欲を高めるために必要なのは、宿題の量や期限を指示し、実行を約束させることだけではありません。
授業中の表情や反応から理解度や気持ちを捉え、授業の中で「分かった」「できた」という手応えをつくる。授業外での取り組みを確認し、その様子に応じて、次の授業や声かけを変えていく。授業と宿題を一連の学習の循環として捉える必要があります。
その土台になるのが、生徒と講師、そして生徒と塾との信頼関係です。
生徒は、次のように感じたときに、「やってみよう」と走り出せることがあります。
- 自分の努力や変化を先生が見つけ、認めてくれている
- 先生が自分の可能性を信じてくれている
- 自分が目指したい目標と、日々の学習がつながっている
- 先生や仲間と一緒なら頑張れそうだ
成果につながる講師の付加価値は、知識を分かりやすく教えることだけではありません。生徒の状態を捉え、その生徒が動き出せる関わりを考えることにもあります。
校舎長には、このような関わりができる講師を、校舎全体で育てることが求められます。
校舎長の成果を3つの段階で捉える
優れた講師が、そのまま優れた校舎長になるとは限りません。自分が成果を出す力と、ほかの講師を通じて成果を生み出す力は異なるからです。
1.自分が生徒を伸ばす
自らの授業や関わりによって、生徒の意欲や主体性を高め、成績向上や合格につなげます。
2.所属する講師を通じて生徒を伸ばす
講師の授業や生徒対応を観察し、本人が何を見て、どのように考えたのかを引き出します。校舎長のやり方を一方的に教えるのではなく、講師自身が考え、授業を改善できるように支援します。
3.次の校舎長を育てる
授業見学とフィードバック、目標や数値の進捗確認と改善提案、講習や教材など一つの業務領域の運営を、次期校舎長候補に段階的に任せます。
仕事を渡すだけでなく、「何を見て判断したか」「次はどうするか」まで一緒に振り返ることで、校舎運営に必要な判断力を育てます。
個人の実践を、校舎全体の知恵に変える
講師同士の学び合いを実現するには、単に「事例を共有しましょう」と呼びかけるだけでは十分ではありません。
次のような仕組みを組み合わせることが考えられます。
- 授業を相互に見学し、生徒の反応と講師の関わりを観察する
- 校舎長との1on1で、講師の判断や工夫を言葉にする
- 校舎会議の一部を使い、事例を校舎全体で共有する
事例を話し合う際には、次の問いを共通して使います。
- 生徒にどのような反応や変化が見られたか
- その反応をどのように捉えたか
- なぜ、その授業方法や声かけを選んだか
- 関わった結果、生徒に何が起きたか
授業見学を評価や査定の場にすると、講師は授業を見せることに抵抗を感じます。良し悪しを判定するのではなく、生徒の変化と講師の判断を一緒に考える「学習の場」として位置づけることが大切です。
校舎任せにせず、本部が育成の土台をつくる
学び合いが必要だと分かっていても、校舎では授業や生徒対応、短期的な業績が優先されます。忙しくなると、育成のための時間は後回しになりがちです。
また、講師育成を各校舎長の経験と努力に任せていると、校舎によって育成の質や方針に差が生まれます。
人事・人材育成部門には、育成を校舎長個人の努力に委ねず、校舎運営の一部として位置づける役割があります。
- 校舎長に求める役割と育成行動
- 授業見学や1on1で使用する共通の問い
- 校舎会議で事例を共有する進め方
- 次期校舎長候補に段階的に任せる仕事
- 育成を行うための時間と運営上の位置づけ
仕組みを用意することで、校舎ごとの違いをなくすのではありません。各校舎にある知恵を持ち寄り、組織として学べる状態をつくることが目的です。
その塾らしい教育を、次の世代へ継承する
「生徒の成長」をどのように捉えるか、どの程度高い目標に挑戦してもらうか、生徒とどのような距離感で関わるかは、企業によって異なります。
成績向上と人としての成長の捉え方、授業や宿題で大切にすること、講師に求める役割、校舎で育てたい競争・挑戦・安心などの文化には、その塾らしさが表れます。
一般的な管理職の知識を学ぶことは重要です。しかし、一般論だけでは、その企業らしい校舎運営や生徒との関わりは育ちません。
まずは、生徒の意欲や主体性を高め、成績向上や合格にもつなげている校舎長・講師の実践に目を向けることが必要です。
その人たちは、生徒の何を見ているのか。どのように状況を捉え、何を大切にして関わっているのか。その知恵を言語化し、自社の教育観と結びつけることで、校舎長に求める役割と行動が具体的になります。
校舎内の学び合いを、組織の仕組みに
株式会社クラリスでは、成果を生み出している校舎長・講師へのヒアリングを通じて、本人も意識していない観察・判断・関わり方を言語化します。
その内容をもとに、校舎長に求める役割や育成行動、授業見学・1on1・校舎会議で使用できる共通の問いなどを、企業の教育観に合わせて整理します。
校舎ごとに育成の質が異なる、講師の実践が個人の中にとどまっている、次の校舎長候補が十分に育っていないと感じている場合は、クラリスへご相談ください。
「企業らしさを受け継ぐ管理職育成」シリーズ
一般的なマネジメントを土台にしながら、業界特性、企業の価値観、成果を出す人の知恵を、現場で実践できる判断と行動に変える方法を紹介しています。
