成果を出している管理職のやり方を、ほかの管理職にも共有したい。
そのために本人へ話を聞いても、「部下をよく見る」「状況に合わせて対応する」といった、一般的な回答しか出てこないことがあります。
これは、本人が知恵を隠しているからではありません。
成果を出している人ほど、自分が何を見て、どのように状況を捉え、なぜその行動を選んだのかを、意識せずに行っていることがあります。
こうした、経験の中で培われたものの、本人にも十分に言語化されていない知恵を「暗黙知」と呼びます。
成果を出す管理職の行動だけを真似しても、同じ成果にはつながらない
成果を出している管理職から「何をしているか」を聞き、その行動をチェックリストにすることはできます。
しかし、表面的な行動だけを共有しても、状況が変われば使えなくなる可能性があります。
例えば、「部下に仕事を任せる」という行動が成果につながっていたとしても、実際には次のような判断が行われています。
- 部下の経験や現在の力量をどのように見ているか
- 本人がどの程度、自分で考えられているか
- 失敗した場合に、どのような影響が生じるか
- どこまで任せ、どの段階で確認するか
- 今回の経験を通じて、何を身につけてほしいか
同じ「仕事を任せる」という行動でも、こうした観察や判断がなければ、放任になったり、反対に細かく口を出しすぎたりします。
組織に継承すべきなのは、行動だけではありません。
その行動に至るまでに、何を見て、どう捉え、何を大切にして判断したのかまで明らかにすることが重要です。
暗黙知を抽出する対象者は、成果の中身から選ぶ
暗黙知を言語化する際、売上や業績など、本人の成果だけで対象者を選ぶと注意が必要です。
本人が高い成果を出していても、部下に仕事を任せられず、本人の力だけで成果を生み出している場合があるためです。
管理職の育成力を組織へ展開したい場合は、次のような観点から対象者を選ぶことが大切です。
- 部下が成長し、定着している
- 顧客や周囲からの信頼が高い
- 次の管理職候補を育てている
- 本人がいなくても、周囲が成果を出せる仕組みをつくっている
本人の成果だけでなく、その人の関わりによって、部下や組織にどのような変化が生まれているかを見ます。
一人の優れた管理職を再現するのではなく、組織として生み出したい状態を起点に対象者を選ぶことが重要です。
通常のヒアリングだけでは、暗黙知を引き出しにくい
成果を出している管理職に、「部下育成で大切にしていることは何ですか」と質問すると、理念や一般論が返ってくることがあります。
それだけでは、実際の場面で活用できる知恵にはなりません。
通常のヒアリングで暗黙知を十分に引き出せない理由には、次のようなものがあります。
- 本人にとって当たり前で、特別な行動だと認識していない
- 成功した行動は語れても、その判断理由が出てこない
- 結果を知っているため、当時の迷いや選択肢を思い出しにくい
後から振り返ると、最初から正しい判断が分かっていたように感じてしまいます。
しかし、実際の場面では、複数の選択肢の中から、相手の反応や状況を見ながら行動を選んでいます。
そのため、抽象的な考え方だけでなく、具体的な出来事を詳しく振り返る必要があります。
具体的な場面から「観察・判断・行動・価値」を引き出す
暗黙知を言語化する際には、まず、判断が必要になった具体的な場面を取り上げます。
例えば、「成長が停滞していた部下が、自ら動くようになった場面」などです。
そのうえで、次の順序で掘り下げます。
1.どのような場面で、判断が必要になったのか
誰が、どのような状況にあり、何が課題になっていたのかを具体的にします。
2.どの情報や変化に注目したのか
部下の発言、表情、行動、仕事の進み方、周囲との関係など、管理職が実際に見ていたものを明らかにします。
3.状況をどのように捉え、何を考えたのか
見えた事実を、どのように意味づけたのかを確認します。「意欲がない」と決めつけず、「やり方が分からず動けないのではないか」と考えるなど、判断の背景を引き出します。
4.どのような言葉や行動を選んだのか
実際に伝えた言葉、質問、任せ方、支援の方法を具体的にします。また、ほかの選択肢ではなく、なぜその行動を選んだのかを確認します。
5.その行動によって、どのような価値が生まれたのか
部下の成長だけでなく、顧客、チーム、組織にどのような変化が生まれたのかを整理します。
この流れで確認することで、単なる成功事例ではなく、別の管理職が自分の現場で考えるための材料になります。
本人の発言だけでなく、複数の視点から確かめる
本人が語る内容と、実際の行動が完全に一致するとは限りません。
また、本人が認識していない小さな関わりが、部下にとって大きな支えになっていることもあります。
引き出した知恵が、組織で活用できる内容かを確かめるには、次の方法が有効です。
- 部下や関係者にも聞き、受け手から見た行動を確認する
- 実際の場面を観察し、発言と行動を照らし合わせる
- 複数の成果者に聞き、共通点と違いを比較する
複数の視点を重ねることで、特定の人の個性に依存した方法と、ほかの人も活用できる知恵を分けやすくなります。
共通化しすぎず、現場で判断できる余地を残す
暗黙知を言語化すると、すべてを標準化し、一つの正解として示したくなることがあります。
しかし、管理職が向き合う部下や状況は一人ひとり異なります。
細かな手順まで固定すると、管理職が自ら考えず、決められた対応を行うだけになってしまいます。
組織で共通化する際には、次のバランスが大切です。
- 判断するときに見る観点を共通化する
- 具体的な行動例を複数示す
- 個人や現場が選べる余地を残す
同じ行動をさせることが目的ではありません。
企業が大切にしている価値観に沿って、管理職が状況を捉え、自ら判断できる状態をつくることが目的です。
言語化した暗黙知を、現場で使える育成ツールに変える
暗黙知は、言葉にしただけでは組織に定着しません。
使う場面に合わせ、社員が実践できる形に変える必要があります。
例えば、次のような形へ展開できます。
- 研修で使用するケースや演習
- OJTや部下育成のチェックリスト
- 次期管理職候補の育成計画
- 面談やフィードバックのガイド
- 実践場面を示す動画やマニュアル
研修、OJT、面談、日々の振り返りに同じ観点を組み込むことで、成果を出す管理職の知恵が、組織の育成基準として活用されるようになります。
個人の経験を、組織で受け継がれる知恵に変える
成果を出している管理職の知恵は、本人にとって当たり前になっているからこそ、簡単には言葉になりません。
具体的な場面から、何を見て、どう捉え、なぜその行動を選んだのかを丁寧に引き出す必要があります。
株式会社クラリスでは、成果を出している管理職や社員へのヒアリング、関係者からの確認、実際の場面の分析を通じて、本人の中にある観察・判断・関わり方を明らかにします。
さらに、その企業が大切にしている価値観と結びつけ、研修、OJT、面談ガイド、チェックリスト、事例教材など、現場で実践できる形に整理します。
成果を出す管理職の知恵を、個人の経験のまま終わらせず、次の世代へ継承したいと感じている場合は、クラリスへご相談ください。
「企業らしさを受け継ぐ管理職育成」シリーズ
一般的なマネジメントを土台にしながら、業界特性、企業の価値観、成果を出す人の知恵を、現場で実践できる判断と行動に変える方法を紹介しています。
