生成AIを使えば、管理職の役割、部下育成の方法、面談の進め方などについて、短時間で多くの情報を得られるようになりました。
質問をすれば、一定水準の回答や事例、会話例まで示してくれます。
一方で、AIから得られる一般的な回答だけを、そのまま自社の判断や人材育成に使うことには注意が必要です。
一般的には正しい内容であっても、その企業が培ってきた歴史、現場特有の状況、大切にしている価値観までは反映されていないからです。
生成AIによって一般的な正解を得やすくなった時代だからこそ、「自社では、何を大切にして、どのように判断するのか」を明らかにすることが重要になります。
一般的な回答だけでは、企業らしさが失われる可能性がある
生成AIは、幅広い情報をもとに、もっともらしい回答をつくることが得意です。
しかし、自社の情報を与えていない状態では、次のような内容は回答に十分反映されません。
- 企業が、創業以来大切にしてきた考え方
- 顧客に対して、商品やサービス以外に届けたい価値
- 現場で成果を出す人が、状況に応じて行っている判断
- 過去の経験から培われた、失敗を防ぐための着眼点
- 社員にどのような人へ成長してほしいかという思い
その結果、一般論としては正しくても、現場では使いにくい回答になることがあります。
また、社員がAIの回答を「正解」として扱うようになると、自ら状況を見て考える機会が減ってしまう可能性もあります。
企業が一般的なやり方だけを採用していけば、他社との違いが小さくなり、その企業が長い時間をかけて培ってきた良さやオリジナリティが薄れてしまいます。
一般的な知識と、企業ならではの知恵を分けて考える
AIを人材育成に活用する際には、「一般的に身につけること」と「その企業ならではのレベルアップ」を分けて考えると分かりやすくなります。
一般的に身につける知識やスキル
例えば、傾聴、質問、フィードバック、目標設定、問題解決などは、多くの企業に共通する基礎的な知識やスキルです。
こうした内容は、生成AIによる解説、練習問題、会話トレーニングなどを活用しやすい領域です。
その企業ならではの判断や関わり方
一方、実際の現場では、一般的なスキルだけでなく、企業の価値観や顧客との関係、業務上の制約などを踏まえた判断が必要になります。
例えば、同じ「部下に任せる」という行動でも、挑戦を重視する企業と、安全や品質を最優先する企業では、任せる範囲や確認の方法が異なります。
同じ「お客様の話を聴く」という行動でも、短時間で課題を解決することを重視する企業と、長期的な信頼関係を築くことを重視する企業では、望ましい対応が変わります。
一般的な知識を土台にしながら、「自社では何を見るのか」「何を大切に判断するのか」を重ねることが、その企業らしい人材育成につながります。
企業固有の知恵は、AIを導入するだけでは蓄積されない
社内マニュアルや既存資料をAIで検索できるようにすることは、知識を探しやすくするうえで有効です。
ただし、文書になっている情報だけでは、現場で成果を出す人の知恵を十分に活用できないことがあります。
成果を出している管理職や社員は、マニュアルに書かれていない小さな変化に気づき、状況に応じて対応を変えています。
例えば、次のような知恵です。
- どのような場面で、判断が必要になるのか
- 相手のどのような反応や変化に注目しているか
- 見えた状況を、どのように捉えているか
- 複数の選択肢から、なぜその対応を選ぶのか
- その関わりによって、誰にどのような価値を生み出したいか
こうした暗黙知をAIで活用するためには、まず人が、具体的な経験から観察・判断・行動を丁寧に引き出し、言葉にする必要があります。
企業固有の知恵を、AIでどのように活用するか
企業が大切にしている価値観や、成果を出す人の判断を整理することで、AIは単なる情報検索ではなく、社員の成長を支援する役割を担えるようになります。
1.社内の判断基準を探しやすくする
マニュアルや事例を探すだけでなく、ある場面で自社が何を大切に判断しているのかを確認できるようにします。
2.自社のケースで練習する
面談、部下育成、顧客対応などについて、AIを相手に実際の場面を想定した練習ができます。
一般的なスキルだけでなく、自社の価値観や現場の判断条件を含めて練習することが重要です。
3.すぐに答えを示さず、考えるための問いを返す
AIが正解を教えるだけでは、社員が自ら考える力は育ちません。
「相手のどの反応に注目しましたか」「自社が大切にしている考え方に照らすと、何を優先しますか」など、判断を深める問いを返す使い方が考えられます。
4.経験を振り返り、学びに変える
業務後に、何が起きたのか、何を見てどう判断したのか、次は何を変えるのかをAIとの対話で整理します。
一人ひとりの経験を、その場限りで終わらせず、次の行動につなげられます。
5.現場で生まれた新しい知恵を蓄積する
企業固有の知恵は、一度整理して完成するものではありません。
顧客や働き方、社会環境が変われば、現場で新しい判断や工夫が生まれます。
実践と振り返りから得た知恵を継続的に蓄積し、組織で共有することで、企業らしさも時代に合わせて発展していきます。
AIが広がっても、人が担い続けること
AIが多くの選択肢を示せるようになっても、企業や人材育成の方向を決めるのは人です。
特に、次のことは人が担い続ける必要があります。
- 何を課題と捉えるのかを決める
- どのような状態を目指すのかを決める
- 企業の価値観に照らして最終判断をする
- 相手の可能性を信じ、勇気づける
- 対話を通じて、新しい意味や価値を生み出す
AIは、過去の情報から選択肢を示し、考えを整理する支援ができます。
しかし、「私たちは、どのような企業でありたいのか」「お客様や社員に、どのような価値を届けたいのか」は、人が対話し、選び取るものです。
その方向が定まって初めて、AIを何のために、どのように活用するのかが決まります。
生成AI時代だからこそ、企業の知恵を言葉にする
ベテラン社員の退職や人材の流動化によって、現場の知恵が失われるリスクは高まっています。
一方で、生成AIを活用すれば、これまで一部の人の経験にとどまっていた知恵を、より多くの社員が学び、実践できる可能性があります。
そのために必要なのは、AIを導入することだけではありません。
まず、企業が大切にしていることと、成果を出している人が実際に行っている観察・判断・行動を明らかにすることです。
そして、それを研修、OJT、面談、ケース演習、振り返り、AIとの対話など、社員が日常の中で使える形に変えていきます。
企業の思いを、現場で受け継がれる行動に変える
この連載では、業界によって異なる管理職の役割、学習塾や店舗における管理職育成、一般的な研修を現場の行動に変える方法、成果を出す管理職の暗黙知を組織の育成基準に変える方法を紹介してきました。
すべてに共通するのは、一般的な正解をそのまま当てはめるのではなく、企業の価値観と現場の知恵をつなぐことです。
株式会社クラリスでは、企業が大切にしている思いと、成果を出す管理職や社員の暗黙知を明らかにし、社員が実践できる判断と行動に変えていきます。
その内容を、研修、OJT、面談ガイド、チェックリスト、事例教材、動画、AIを活用した練習や振り返りなど、目的に合った形に整理します。
生成AIの時代だからこそ、自社らしい判断や関わり方を次の世代へ継承したいと感じている場合は、クラリスへご相談ください。
「企業らしさを受け継ぐ管理職育成」シリーズ
一般的なマネジメントを土台にしながら、業界特性、企業の価値観、成果を出す人の知恵を、現場で実践できる判断と行動に変える方法を紹介しています。
